【絵本専門士HARUの絵本時間】ほんとは「ええこやねぇ」と言ってもらいたい。子どもの本音に気づく 『おこだでませんように』


『おこだでませんように』くすのきしげのり作、石井聖岳絵、小学館、2008  amazon

【あらすじ】

ぼくはいつもおこられる。

妹を泣かせてしまったとき、女の子に虫を見せて驚かせてしまったとき、給食を盛りすぎてしまったとき、ぼくはいつも怒られる。友達と喧嘩したときだって、本当は意地悪を言ってきたのは友達なのに、ぼくだけ先生に怒られる。

そんなとき、ぼくは黙って横を向く。本当は「ええこやねえ」って言われたい。だから……。

『おこだでませんように』は、七夕の短冊に、一生懸命願いを込めた男の子のお話です。

「ええこやねえ」と言ってほしい ある男の子の願い

横を向いて、涙をこらえ怒ったような顔をしている男の子。この絵本の表紙に描かれた印象的なカットにまず目を引かれます。

この絵本は、先日の「涙活」がテーマの絵本の会でご紹介した1冊です。

いつも怒られてばかりの1年生の男の子が、慣れないひらがなで、時間をかけて、一生懸命に1枚の短冊に書き出した「おこだでませんように」という一言。

大人はどうしてもこの一言に、そしてその短冊が大きく描かれたページに惹き込まれ、涙を誘われます。それは、日々のなかで取りこぼしてしまっていた、「愛してるって伝えてほしい」という子どもの純粋で切実な願いに改めて気づかされるからなのだと思います。

毎日を過ごす中で、ともに過ごす子どもたちの思いや表情に、わたしたちはどれだけ気がつけているでしょうか。

見落としてしまっている表情、取りこぼしてしまっている感情はどうしてもあるはずです。それはもうしょうがないことだとは思います。

みんなが一生懸命生活していて、それぞれの役割を担って頑張っているはずだから。

でも、そしてだからこそ、子どもの本音に気がつけたときには、ぎゅっと抱きしめて「ええこやねえ」と言ってあげたい、とこの絵本は思わせてくれます。

七夕に込められたこの絵本の男の子の願いに心動かされたとき、みなさんは七夕の願いをなんと願うのでしょうか。願わくば、すべての子どもたちの願いが叶いますように。

どうぞみなさま、素敵な七夕の夜をお過ごしください。

絵本専門士 藤井遥

【大人のための絵本の会】夏休み★絵本×クッキング 『ひんやり』

★夏休み特別企画★

ひんやりする怖い絵本、ひんやりスイーツが美味しそうな絵本を楽しんでから、ひんやりスイーツ フルーツポンチを作ります★

6月の絵本の会では、感動の涙、悲しい涙、様々な涙を流す機会となりました。

7月はうってかわって、「ひんやり」をテーマにお送りします。

まず怖い絵本でひんやり。昨年の7月、ふいごファームで開催した「怖い絵本」イベントに来られなかった人も多かったので、リバイバル開催となりました。

そして、ひんやりスーツ作り。 夏休みの恒例子ども企画 お料理×絵本 と合体し、フルーツポンチをみんなで作って食べましょう。おいしそうなスイーツ絵本も紹介します♪

絵本に興味がある方でしたら、詳しくなくてもどなたでも楽しめます。

小さな子どもを連れての参加や途中入退場もできますので、気軽にご参加くださいね。

お待ちしております♪

開催日時2025年7月29日(火)10:00-12:00
場所コクリエ親子ラボ 神奈川県鎌倉市津西1-25-18
内容・絵本の会紹介&簡単な自己紹介
・テーマに沿った絵本のご紹介
・絵本を囲んでおしゃべり

・スイーツ絵本の紹介
・ひんやりスイーツ フルーツポンチづくり
講師絵本専門士 HARUさん
参加方法申し込み方法・お問合せ:
メール info@cc-oyakolab.net または※LINE、InstagramのDMからお申しこみください。
申込締め切り:7月24日(木)12:00
参加費今回は参加費+別途材料費
材料費は参加人数によりますが、1人300円~500円程度を予定

<参加費>
・初回体験参加 500円
・会員の方 500円
・非会員の方 1000円
絵本の会についてコクリエ絵本の会とは?

※LINEお友だち追加はこちら

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【絵本専門士HARUの絵本時間】サイレント映画を見るような静けさを味わう 『かさ』


『かさ』作・絵/太田大八、文研出版、2005、amazon

【あらすじ】

雨が降りしきる中、大きな黒い傘を抱えて歩いていく女の子。

友達とすれ違い、線路を越え、歩道橋を渡って、めざす先は駅でした。

白黒の背景の中を、赤い女の子の傘だけがカラーで描写される表現によって、女の子の心情や歩みに注目しながらその姿を追うことができます。文字なし絵本なので、サイレント映画を見るように、読み手の想像力を膨らませながら味わえる1冊です。

自分が少し大人になったような嬉しさを感じて 小さな女の子の冒険

この絵本では、雨の降る白黒の情景の中を、赤い女の子の傘が進んでいく様子が描かれています。

この絵本のページをめくっていくうちに、鬱々としてしまうような降りしきる雨の中の、目をひくその鮮やかな赤い傘に、わたしたちはどうしても惹きこまれていくのです。

先日、私が誕生日を迎えた日に、小学生の娘が「何か買ってきてプレゼントしてあげる!」と自分のお財布を首にかけて一人で近くのコンビニへ買い物に出かけました。親としては、一人で出歩かせることに少しの心配もありましたが、自分のお小遣いで自分の足でささやかなながらもプレゼントを買いに行く、ということに張り切り誇らしげにしている娘の表情を見たら断ることはできませんでした。そんなとき、この絵本の女の子もこんな気持ちだったのかな、とふと思いました。

大人にとっての普段の駅までの道は、目的の場所に辿りつくための移動時間でしかないかもしれません。

けれど、赤い傘の女の子にとっては、道すがらのさまざまな出来事がどれも新鮮でどきどきわくわくの連続に感じられるのでしょう。鮮やかに映える傘の赤は、まるで女の子の高揚した気持ちを表しているようです。

お父さんの少し重い傘を脇に抱え、お父さんの力になれることが少し誇らしくもあり、また一人で駅までの道を進むことにうきうきした冒険心にあふれている様子がドラマチックに描かれています。

街中の定点カメラから眺めているような画角の効果により、雨の中歩みを進めていく女の子の姿を追いながら、私たちもしっとりとじっくりと眺めて感情移入していくことができるのです。

お父さんの黒い大きな傘が開かれて赤い傘の出番は終わったとき、親子のほっこりするラストにも注目です。

絵本専門士 藤井遥 


文字がなくても しとしと降る雨の音が聞こえてくるような、しっとりと味わえる絵本ですね。