【絵本専門士HARUの絵本時間】 みんなそれぞれに「へた」があって、「じょうず」がある『へたなんよ』

『へたなんよ』文/彦・田中、絵/はまのゆか、光村教育図書、2017  amazon


あらすじ

おばあちゃんは、いろんなことがへたなんよ。

おかあさんは、「へたなんて いうたら アカン」とおこります。おばあちゃんは、「へたで ええよ」ってわらうの。せやからわたしがかわりにしてあげるん。

孫のネネちゃんとおばあちゃんの会話からはじまるこの絵本。ネネちゃんにも、下手なことはあり、ネネちゃんが下手なことが上手な友達もいます。相手に上手だねと褒めると、照れて頭をかいたり、ニコ、ニコ、ニコリンと笑ったりしてる。でも、そんな子にも下手なことはあって−。

みんなそれぞれに「へた」があって、「じょうず」がある。どんな自分も愛せるようになれるような、あたたかな気持ちになれる絵本です。

「へた」を認める勇気、「じょうず」を誇る自分を信じる力

まわりに目を向けていくと、孫のネネちゃんは、自分が不得手なことが得意な人がいること、その人にも不得手なことがあることに気づいていきます。

そこには、相手の上手なことを「じょうずやねえ」と素直に褒めてあげられる気持ちよさがあり、劣等感やコンプレックスは感じられません。

この絵本は、できない自分もありのままに認めることや、相手や自分の素敵なところを認め合う心地よさを、関西弁で穏やかな語りを通して教えてくれます。まるで、「上手」「苦手」「できない」も、すべてまとめて包み込んでくれるようです。

孫のネネちゃんが、おばあちゃんの〝できないこと〟をそっと支え、「じょうずやねえ」とおばあちゃんが返す。

そうやって共感しお互いの凸凹を支え合いながら人と関わって生きていけたらいいよね、と心から思わされます。ほんわか柔らかな空気感をまとった、優しい気持ちになれる1冊です。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は8月28日(木)10:00~12:00ごろ 『予想を裏切る絵本②』です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にご参加ください

【絵本専門士HARUの絵本時間】ほんとは「ええこやねぇ」と言ってもらいたい。子どもの本音に気づく 『おこだでませんように』


『おこだでませんように』くすのきしげのり作、石井聖岳絵、小学館、2008  amazon

【あらすじ】

ぼくはいつもおこられる。

妹を泣かせてしまったとき、女の子に虫を見せて驚かせてしまったとき、給食を盛りすぎてしまったとき、ぼくはいつも怒られる。友達と喧嘩したときだって、本当は意地悪を言ってきたのは友達なのに、ぼくだけ先生に怒られる。

そんなとき、ぼくは黙って横を向く。本当は「ええこやねえ」って言われたい。だから……。

『おこだでませんように』は、七夕の短冊に、一生懸命願いを込めた男の子のお話です。

「ええこやねえ」と言ってほしい ある男の子の願い

横を向いて、涙をこらえ怒ったような顔をしている男の子。この絵本の表紙に描かれた印象的なカットにまず目を引かれます。

この絵本は、先日の「涙活」がテーマの絵本の会でご紹介した1冊です。

いつも怒られてばかりの1年生の男の子が、慣れないひらがなで、時間をかけて、一生懸命に1枚の短冊に書き出した「おこだでませんように」という一言。

大人はどうしてもこの一言に、そしてその短冊が大きく描かれたページに惹き込まれ、涙を誘われます。それは、日々のなかで取りこぼしてしまっていた、「愛してるって伝えてほしい」という子どもの純粋で切実な願いに改めて気づかされるからなのだと思います。

毎日を過ごす中で、ともに過ごす子どもたちの思いや表情に、わたしたちはどれだけ気がつけているでしょうか。

見落としてしまっている表情、取りこぼしてしまっている感情はどうしてもあるはずです。それはもうしょうがないことだとは思います。

みんなが一生懸命生活していて、それぞれの役割を担って頑張っているはずだから。

でも、そしてだからこそ、子どもの本音に気がつけたときには、ぎゅっと抱きしめて「ええこやねえ」と言ってあげたい、とこの絵本は思わせてくれます。

七夕に込められたこの絵本の男の子の願いに心動かされたとき、みなさんは七夕の願いをなんと願うのでしょうか。願わくば、すべての子どもたちの願いが叶いますように。

どうぞみなさま、素敵な七夕の夜をお過ごしください。

絵本専門士 藤井遥

【絵本専門士HARUの絵本時間】サイレント映画を見るような静けさを味わう 『かさ』


『かさ』作・絵/太田大八、文研出版、2005、amazon

【あらすじ】

雨が降りしきる中、大きな黒い傘を抱えて歩いていく女の子。

友達とすれ違い、線路を越え、歩道橋を渡って、めざす先は駅でした。

白黒の背景の中を、赤い女の子の傘だけがカラーで描写される表現によって、女の子の心情や歩みに注目しながらその姿を追うことができます。文字なし絵本なので、サイレント映画を見るように、読み手の想像力を膨らませながら味わえる1冊です。

自分が少し大人になったような嬉しさを感じて 小さな女の子の冒険

この絵本では、雨の降る白黒の情景の中を、赤い女の子の傘が進んでいく様子が描かれています。

この絵本のページをめくっていくうちに、鬱々としてしまうような降りしきる雨の中の、目をひくその鮮やかな赤い傘に、わたしたちはどうしても惹きこまれていくのです。

先日、私が誕生日を迎えた日に、小学生の娘が「何か買ってきてプレゼントしてあげる!」と自分のお財布を首にかけて一人で近くのコンビニへ買い物に出かけました。親としては、一人で出歩かせることに少しの心配もありましたが、自分のお小遣いで自分の足でささやかなながらもプレゼントを買いに行く、ということに張り切り誇らしげにしている娘の表情を見たら断ることはできませんでした。そんなとき、この絵本の女の子もこんな気持ちだったのかな、とふと思いました。

大人にとっての普段の駅までの道は、目的の場所に辿りつくための移動時間でしかないかもしれません。

けれど、赤い傘の女の子にとっては、道すがらのさまざまな出来事がどれも新鮮でどきどきわくわくの連続に感じられるのでしょう。鮮やかに映える傘の赤は、まるで女の子の高揚した気持ちを表しているようです。

お父さんの少し重い傘を脇に抱え、お父さんの力になれることが少し誇らしくもあり、また一人で駅までの道を進むことにうきうきした冒険心にあふれている様子がドラマチックに描かれています。

街中の定点カメラから眺めているような画角の効果により、雨の中歩みを進めていく女の子の姿を追いながら、私たちもしっとりとじっくりと眺めて感情移入していくことができるのです。

お父さんの黒い大きな傘が開かれて赤い傘の出番は終わったとき、親子のほっこりするラストにも注目です。

絵本専門士 藤井遥 


文字がなくても しとしと降る雨の音が聞こえてくるような、しっとりと味わえる絵本ですね。