【絵本専門士HARUの絵本時間】「だめ」と言われても、心の声をひっこめないで『だめといわれてひっこむな』

『だめといわれてひっこむな』編:東京子ども図書館/挿絵:大社玲子、東京子ども図書館、2001 amazon


あらすじ

あるところに、小さなねずみの子どもがいました。ある日、おばあさんの家を訪ね、おねだりをします。「なにかくださいな」と。しかし、おばあさんは最初「だめ」と冷たく断ります。しょんぼり引っ込もうとしたねずみですが――そこで、心の中に小さな声が響きます。

「ほんとうに、あきらめてしまっていいの?」

ねずみは引っ込むことをやめて、自分の望むものをあきらめずに、おねだりを続ける決意をします。

おばあさんの「だめだよ」という言葉にひるまず、「だめと言われてもひっこまない」でおねだりを続けるねずみ。やがて、その行動が予想外の展開を生み、おばあさんも、そしてねずみ自身も、新しい関係や気づきを得ることになります。

伝える勇気と聞く優しさ

このお話は、「だめ」と言われたときに、本当にあきらめてしまうのか、それとも立ち止まらず気持ちを込めて自分の願いをもう一度伝え続けるのか――そんな“ことばと心のやりとり”を描いています。

物語の中で小さなねずみの子は「だめだ」と言われながらも引き下がらず、自分の願いや気持ちを伝えようとします。この姿は、子どもが「断られた」「否定された」と感じたとき、自らの声をあげるヒントとなります。

このお話は、ドイツ(プロイセン)に伝わる昔話を東京子ども図書館が編じて《おはなしのろうそく 愛蔵版》の一篇として再話された作品です。

「おはなしのろうそく」より活字を少し大きくし、子ども向きに再編集した小型のハードカバー本です。大社玲子さんの魅力的な挿絵がたっぷりはいっており、ふりがなもふってあるので子どもへの読み聞かせにも自分でじっくり読むのにもぴったりです。

「だめ」と言われても、心の声をひっこめずに。

小さなねずみが見せてくれるその一歩が、“断られても自分の気持ちを伝える勇気”を教えてくれるはずです。こねずみのかわいらしさも相まって、耳で聞いても楽しい、ほっこり温かな光を灯してくれるようなお話です。ぜひ収録されたほかのお話も楽しんでみてくださいね。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は2025年11月11日です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にどうぞ

★藤井さんの絵本紹介をもっと読みたい方は、絵本のある暮らしをもっと楽しむ情報メディア にこっと絵本 をご覧ください。

そのために、きみの足はついている『にげてさがして』作/ ヨシタケシンスケ、ポプラ社、2025 amazon


あらすじ

世の中にはいろんな人がいる。

たくさんの人の中には、「想像力をつかうのが苦手な人」がいる。

もし君が「想像力をつかうのが苦手な人」から、ひどいことをされてしまったとき、すべきことはひとつ。自分を守るために、その場から逃げること。

自分を守るために、逃げていいんだよ。逃げて、探して、動いて、自分の居場所を見つけていこう。と、気持ちを導いてくれる1冊です。

にげてさがして うごいてうごいて

新学期がはじまりました。期待に胸がふくらむ一方で、集団活動の波の中で泳ぎ続ける生活が、苦しいと思ったら。この絵本を手に取ってほしいのです。静かに、でも確かな言葉で、あなたに寄り添ってくれる一冊です。

世の中には、実にさまざまな人がいて、それぞれが異なる価値観を持ち、それぞれの正しさで生きています。人の分だけ、すべての人とわかり合えるわけではなく、時にすれ違いや摩擦が生まれることもあるでしょう。そんな中で、あなたが傷つくような出来事に出会ったなら、そこからそっと距離を取ればいいんだよ、とこの絵本は背中を押してくれます。

作中に登場する「想像力をつかうのが苦手な人」というこの絵本の表現はとても印象的です。他者の立場や環境を慮れるかどうか。それは、人と人とが共に生きていくうえで大切な鍵になるのだと思います。そこに悪意や害意があろうとなかろうと、あなたが「つらい」「苦しい」と思うなら、そこは無理をして居続ける場所ではないのかもしれません。

もし今いる場所が合わないのなら、新しい場所を探してもいいのです。もしかすると、すぐそばにあるかもしれないし、本の中にこそあるのかもしれません。

逃げて、探して、動いて動いて−。自分の心を守ってね、大切にして。と未来への道のりを優しく照らしてくれるのです。

本書は、2021年に株式会社赤ちゃんとママ社より刊行された原稿を再刊行されたものです。この温かなメッセージが、必要としている誰かのもとへ届きますように。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は9月23日(火祝)10:00~12:00ごろ 『悪役のセオリー』です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にご参加ください

【絵本専門士HARUの絵本時間】 みんなそれぞれに「へた」があって、「じょうず」がある『へたなんよ』

『へたなんよ』文/彦・田中、絵/はまのゆか、光村教育図書、2017  amazon


あらすじ

おばあちゃんは、いろんなことがへたなんよ。

おかあさんは、「へたなんて いうたら アカン」とおこります。おばあちゃんは、「へたで ええよ」ってわらうの。せやからわたしがかわりにしてあげるん。

孫のネネちゃんとおばあちゃんの会話からはじまるこの絵本。ネネちゃんにも、下手なことはあり、ネネちゃんが下手なことが上手な友達もいます。相手に上手だねと褒めると、照れて頭をかいたり、ニコ、ニコ、ニコリンと笑ったりしてる。でも、そんな子にも下手なことはあって−。

みんなそれぞれに「へた」があって、「じょうず」がある。どんな自分も愛せるようになれるような、あたたかな気持ちになれる絵本です。

「へた」を認める勇気、「じょうず」を誇る自分を信じる力

まわりに目を向けていくと、孫のネネちゃんは、自分が不得手なことが得意な人がいること、その人にも不得手なことがあることに気づいていきます。

そこには、相手の上手なことを「じょうずやねえ」と素直に褒めてあげられる気持ちよさがあり、劣等感やコンプレックスは感じられません。

この絵本は、できない自分もありのままに認めることや、相手や自分の素敵なところを認め合う心地よさを、関西弁で穏やかな語りを通して教えてくれます。まるで、「上手」「苦手」「できない」も、すべてまとめて包み込んでくれるようです。

孫のネネちゃんが、おばあちゃんの〝できないこと〟をそっと支え、「じょうずやねえ」とおばあちゃんが返す。

そうやって共感しお互いの凸凹を支え合いながら人と関わって生きていけたらいいよね、と心から思わされます。ほんわか柔らかな空気感をまとった、優しい気持ちになれる1冊です。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は8月28日(木)10:00~12:00ごろ 『予想を裏切る絵本②』です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にご参加ください