北欧の彩りが包むアンデルセンの名作──『モミの木』が届ける“今を生きる”贈りもの

『モミの木』作/ハンス・クリスチャン・アンデルセン、絵/サンナ・アンヌッカ、訳/小宮由、アノニマ・スタジオ、2013 amazon


あらすじ

深い森に立つ一本のモミの木は、「もっと大きくなって、早く別の世界へ行きたい」と未来ばかりを夢見て、いま目の前にある季節のきらめきに気づけません。

「今を生きなさい」というお日さまの声も届かないまま、やがて木は切り出され、街へ運ばれてクリスマスツリーとして華やかに飾られます。

しかしそのまばゆい時間はあっという間に過ぎ、残されたのは“もう戻らない日々への切なさ”でした。

輝きを探す心に届く、今を生きるための静かな物語

深い森に立つ一本のモミの木。まっすぐで立派なその姿は、どこか不安げでもあります。

「もっと先へ行きたい。早く大きくなりたい」——そんな思いが胸を占め、足元に広がる季節の豊かさに木はなかなか気づけません。

アンデルセンの名作『モミの木』を、マリメッコのデザイナー、サンナ・アンヌッカが大胆であたたかいアートワークで包み込んだ本書。光の粒のように散りばめられた模様、深い森を思わせる色彩は、物語に寄り添いながら読み手の感性を優しく刺激します。

小宮由さんのまろやかな日本語訳が、モミの木の心の揺れをすっと身近に感じさせてくれ、「今を生きる」というメッセージが静かに胸に染み込んできます。

クリスマスの贈り物にはもちろん、日々を忙しく駆け抜ける人たちへ手渡したい一冊。読み終えたあと、あなたの心にも“今という時間を抱きしめたくなる”あたたかな余韻が残ることでしょう。

自分へのご褒美にも、大切な人への贈り物にも 「サンナ・アンヌッカのクリスマス絵本」シリーズ

この「サンナ・アンヌッカのクリスマス絵本」シリーズは、北欧デザインの美しい図案で古典童話を新解釈する絵本集です。幻想的な色彩と大胆な模様が物語に新しい息吹を与え、大人も楽しめるクリスマスの特別な読書体験を届けてくれます。『くるみ割り人形』『雪の女王』などの名作を美しい装丁で味わえます。自分へのご褒美にも、大切な人への贈り物にもふさわしい、手に取るだけで華やぐ絵本です。

絵本専門士 藤井遥


★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は2025年12月23日です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にどうぞ

★藤井さんの絵本紹介をもっと読みたい方は、絵本のある暮らしをもっと楽しむ情報メディア にこっと絵本 をご覧ください。

【絵本専門士HARUの絵本時間】「だめ」と言われても、心の声をひっこめないで『だめといわれてひっこむな』

『だめといわれてひっこむな』編:東京子ども図書館/挿絵:大社玲子、東京子ども図書館、2001 amazon


あらすじ

あるところに、小さなねずみの子どもがいました。ある日、おばあさんの家を訪ね、おねだりをします。「なにかくださいな」と。しかし、おばあさんは最初「だめ」と冷たく断ります。しょんぼり引っ込もうとしたねずみですが――そこで、心の中に小さな声が響きます。

「ほんとうに、あきらめてしまっていいの?」

ねずみは引っ込むことをやめて、自分の望むものをあきらめずに、おねだりを続ける決意をします。

おばあさんの「だめだよ」という言葉にひるまず、「だめと言われてもひっこまない」でおねだりを続けるねずみ。やがて、その行動が予想外の展開を生み、おばあさんも、そしてねずみ自身も、新しい関係や気づきを得ることになります。

伝える勇気と聞く優しさ

このお話は、「だめ」と言われたときに、本当にあきらめてしまうのか、それとも立ち止まらず気持ちを込めて自分の願いをもう一度伝え続けるのか――そんな“ことばと心のやりとり”を描いています。

物語の中で小さなねずみの子は「だめだ」と言われながらも引き下がらず、自分の願いや気持ちを伝えようとします。この姿は、子どもが「断られた」「否定された」と感じたとき、自らの声をあげるヒントとなります。

このお話は、ドイツ(プロイセン)に伝わる昔話を東京子ども図書館が編じて《おはなしのろうそく 愛蔵版》の一篇として再話された作品です。

「おはなしのろうそく」より活字を少し大きくし、子ども向きに再編集した小型のハードカバー本です。大社玲子さんの魅力的な挿絵がたっぷりはいっており、ふりがなもふってあるので子どもへの読み聞かせにも自分でじっくり読むのにもぴったりです。

「だめ」と言われても、心の声をひっこめずに。

小さなねずみが見せてくれるその一歩が、“断られても自分の気持ちを伝える勇気”を教えてくれるはずです。こねずみのかわいらしさも相まって、耳で聞いても楽しい、ほっこり温かな光を灯してくれるようなお話です。ぜひ収録されたほかのお話も楽しんでみてくださいね。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は2025年11月11日です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にどうぞ

★藤井さんの絵本紹介をもっと読みたい方は、絵本のある暮らしをもっと楽しむ情報メディア にこっと絵本 をご覧ください。

そのために、きみの足はついている『にげてさがして』作/ ヨシタケシンスケ、ポプラ社、2025 amazon


あらすじ

世の中にはいろんな人がいる。

たくさんの人の中には、「想像力をつかうのが苦手な人」がいる。

もし君が「想像力をつかうのが苦手な人」から、ひどいことをされてしまったとき、すべきことはひとつ。自分を守るために、その場から逃げること。

自分を守るために、逃げていいんだよ。逃げて、探して、動いて、自分の居場所を見つけていこう。と、気持ちを導いてくれる1冊です。

にげてさがして うごいてうごいて

新学期がはじまりました。期待に胸がふくらむ一方で、集団活動の波の中で泳ぎ続ける生活が、苦しいと思ったら。この絵本を手に取ってほしいのです。静かに、でも確かな言葉で、あなたに寄り添ってくれる一冊です。

世の中には、実にさまざまな人がいて、それぞれが異なる価値観を持ち、それぞれの正しさで生きています。人の分だけ、すべての人とわかり合えるわけではなく、時にすれ違いや摩擦が生まれることもあるでしょう。そんな中で、あなたが傷つくような出来事に出会ったなら、そこからそっと距離を取ればいいんだよ、とこの絵本は背中を押してくれます。

作中に登場する「想像力をつかうのが苦手な人」というこの絵本の表現はとても印象的です。他者の立場や環境を慮れるかどうか。それは、人と人とが共に生きていくうえで大切な鍵になるのだと思います。そこに悪意や害意があろうとなかろうと、あなたが「つらい」「苦しい」と思うなら、そこは無理をして居続ける場所ではないのかもしれません。

もし今いる場所が合わないのなら、新しい場所を探してもいいのです。もしかすると、すぐそばにあるかもしれないし、本の中にこそあるのかもしれません。

逃げて、探して、動いて動いて−。自分の心を守ってね、大切にして。と未来への道のりを優しく照らしてくれるのです。

本書は、2021年に株式会社赤ちゃんとママ社より刊行された原稿を再刊行されたものです。この温かなメッセージが、必要としている誰かのもとへ届きますように。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は9月23日(火祝)10:00~12:00ごろ 『悪役のセオリー』です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にご参加ください