そのために、きみの足はついている『にげてさがして』作/ ヨシタケシンスケ、ポプラ社、2025 amazon


あらすじ

世の中にはいろんな人がいる。

たくさんの人の中には、「想像力をつかうのが苦手な人」がいる。

もし君が「想像力をつかうのが苦手な人」から、ひどいことをされてしまったとき、すべきことはひとつ。自分を守るために、その場から逃げること。

自分を守るために、逃げていいんだよ。逃げて、探して、動いて、自分の居場所を見つけていこう。と、気持ちを導いてくれる1冊です。

にげてさがして うごいてうごいて

新学期がはじまりました。期待に胸がふくらむ一方で、集団活動の波の中で泳ぎ続ける生活が、苦しいと思ったら。この絵本を手に取ってほしいのです。静かに、でも確かな言葉で、あなたに寄り添ってくれる一冊です。

世の中には、実にさまざまな人がいて、それぞれが異なる価値観を持ち、それぞれの正しさで生きています。人の分だけ、すべての人とわかり合えるわけではなく、時にすれ違いや摩擦が生まれることもあるでしょう。そんな中で、あなたが傷つくような出来事に出会ったなら、そこからそっと距離を取ればいいんだよ、とこの絵本は背中を押してくれます。

作中に登場する「想像力をつかうのが苦手な人」というこの絵本の表現はとても印象的です。他者の立場や環境を慮れるかどうか。それは、人と人とが共に生きていくうえで大切な鍵になるのだと思います。そこに悪意や害意があろうとなかろうと、あなたが「つらい」「苦しい」と思うなら、そこは無理をして居続ける場所ではないのかもしれません。

もし今いる場所が合わないのなら、新しい場所を探してもいいのです。もしかすると、すぐそばにあるかもしれないし、本の中にこそあるのかもしれません。

逃げて、探して、動いて動いて−。自分の心を守ってね、大切にして。と未来への道のりを優しく照らしてくれるのです。

本書は、2021年に株式会社赤ちゃんとママ社より刊行された原稿を再刊行されたものです。この温かなメッセージが、必要としている誰かのもとへ届きますように。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は9月23日(火祝)10:00~12:00ごろ 『悪役のセオリー』です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にご参加ください

【絵本専門士HARUの絵本時間】 みんなそれぞれに「へた」があって、「じょうず」がある『へたなんよ』

『へたなんよ』文/彦・田中、絵/はまのゆか、光村教育図書、2017  amazon


あらすじ

おばあちゃんは、いろんなことがへたなんよ。

おかあさんは、「へたなんて いうたら アカン」とおこります。おばあちゃんは、「へたで ええよ」ってわらうの。せやからわたしがかわりにしてあげるん。

孫のネネちゃんとおばあちゃんの会話からはじまるこの絵本。ネネちゃんにも、下手なことはあり、ネネちゃんが下手なことが上手な友達もいます。相手に上手だねと褒めると、照れて頭をかいたり、ニコ、ニコ、ニコリンと笑ったりしてる。でも、そんな子にも下手なことはあって−。

みんなそれぞれに「へた」があって、「じょうず」がある。どんな自分も愛せるようになれるような、あたたかな気持ちになれる絵本です。

「へた」を認める勇気、「じょうず」を誇る自分を信じる力

まわりに目を向けていくと、孫のネネちゃんは、自分が不得手なことが得意な人がいること、その人にも不得手なことがあることに気づいていきます。

そこには、相手の上手なことを「じょうずやねえ」と素直に褒めてあげられる気持ちよさがあり、劣等感やコンプレックスは感じられません。

この絵本は、できない自分もありのままに認めることや、相手や自分の素敵なところを認め合う心地よさを、関西弁で穏やかな語りを通して教えてくれます。まるで、「上手」「苦手」「できない」も、すべてまとめて包み込んでくれるようです。

孫のネネちゃんが、おばあちゃんの〝できないこと〟をそっと支え、「じょうずやねえ」とおばあちゃんが返す。

そうやって共感しお互いの凸凹を支え合いながら人と関わって生きていけたらいいよね、と心から思わされます。ほんわか柔らかな空気感をまとった、優しい気持ちになれる1冊です。

絵本専門士 藤井遥

★藤井さんが進行役の 大人のための絵本の会。次回は8月28日(木)10:00~12:00ごろ 『予想を裏切る絵本②』です。 どなたでも大歓迎です、お気軽にご参加ください

【絵本専門士HARUの絵本時間】ほんとは「ええこやねぇ」と言ってもらいたい。子どもの本音に気づく 『おこだでませんように』


『おこだでませんように』くすのきしげのり作、石井聖岳絵、小学館、2008  amazon

【あらすじ】

ぼくはいつもおこられる。

妹を泣かせてしまったとき、女の子に虫を見せて驚かせてしまったとき、給食を盛りすぎてしまったとき、ぼくはいつも怒られる。友達と喧嘩したときだって、本当は意地悪を言ってきたのは友達なのに、ぼくだけ先生に怒られる。

そんなとき、ぼくは黙って横を向く。本当は「ええこやねえ」って言われたい。だから……。

『おこだでませんように』は、七夕の短冊に、一生懸命願いを込めた男の子のお話です。

「ええこやねえ」と言ってほしい ある男の子の願い

横を向いて、涙をこらえ怒ったような顔をしている男の子。この絵本の表紙に描かれた印象的なカットにまず目を引かれます。

この絵本は、先日の「涙活」がテーマの絵本の会でご紹介した1冊です。

いつも怒られてばかりの1年生の男の子が、慣れないひらがなで、時間をかけて、一生懸命に1枚の短冊に書き出した「おこだでませんように」という一言。

大人はどうしてもこの一言に、そしてその短冊が大きく描かれたページに惹き込まれ、涙を誘われます。それは、日々のなかで取りこぼしてしまっていた、「愛してるって伝えてほしい」という子どもの純粋で切実な願いに改めて気づかされるからなのだと思います。

毎日を過ごす中で、ともに過ごす子どもたちの思いや表情に、わたしたちはどれだけ気がつけているでしょうか。

見落としてしまっている表情、取りこぼしてしまっている感情はどうしてもあるはずです。それはもうしょうがないことだとは思います。

みんなが一生懸命生活していて、それぞれの役割を担って頑張っているはずだから。

でも、そしてだからこそ、子どもの本音に気がつけたときには、ぎゅっと抱きしめて「ええこやねえ」と言ってあげたい、とこの絵本は思わせてくれます。

七夕に込められたこの絵本の男の子の願いに心動かされたとき、みなさんは七夕の願いをなんと願うのでしょうか。願わくば、すべての子どもたちの願いが叶いますように。

どうぞみなさま、素敵な七夕の夜をお過ごしください。

絵本専門士 藤井遥